おすすめ作品 その1 ど根性ガエルの娘
タイトルのとおり、作者の大月悠祐子先生は、ど根性ガエルの作者吉沢やすみ先生の子供です。
その昔、ギャラクシーエンジェルというメディアミックス作品のキャラデザもされていました。けっこうヒットしていた作品です。
ど根性ガエルはみんなにおなじみですね。大ヒット作です。
「ど根性ガエルの娘」の内容は、ど根性ガエルの作者、吉沢やすみ先生は性格が破綻していて家庭内DVがひどく家族がみんなおかしくなってしまう様子を、子供の大月悠祐子先生の視点から描いたものです。
特に大月悠祐子先生がおかしくなります。
ぱっと見は、よくある(あまりこういう言い方はよくありませんが)毒親の家庭に育った人のエッセイ漫画です。最近は本屋に行くと必ず売っているジャンルですね。
しかし、それらの多くと大きく違うところが2点あります。
1点めは、ベテラン漫画家だけあって、ちゃんと漫画になっています。ドラマが形成されています。
多くの毒親エッセイ漫画は、漫画というよりブログに近いです。文章がメインです。
簡単に言うと詳細に書かれた説明を、絵を助けに読む本です。
なので、いわゆる漫画雑誌に載っているような漫画ではなく、 ちゃんと読もうと思って読む本なんですね。
「漫画でわかる〇〇」に近いです。
そのほうが詳しい毒親模様も知れますし、何より読みごたえがあります。
ただ、人によっては読書と同じく、疲れているときは読めません。
また、毒親のことを知らなかったり興味がない人も途中で読まなくなりそうです。
基本的には、同じく親子関係でつらい感じになっている人向けです。
対してこの漫画は、あくまで漫画なんです。
セリフはあまり多くなく、絵と演出を使って説明します。
そのため、大変読みやすいです。疲れていても読めます。ななめ読みでも、毒親というものを知らなくても読めます。スッと理解できます。
そのため、親子関係で悩んでいる人が共感できるのはもちろん、毒親的世界を知らない人がたまたま読んで「なんだこれ!?」となり、そういう世界を知るきっかけになる可能性を秘めています。
つまり、もっと多くの人にこういう世界を知ってもらえるかもしれない、ということです。
こちらで第1話から読めます。
ふたつめは、最新巻の5巻で、結婚後のことが描かれる点です。
多くの毒親エッセイ漫画は、辛い体験の話です。つまり被害者としての自分が描かれます。
しかしこの5巻では作者は加害者になります。
毒親の被害にあった人は、結婚すると配偶者や子供にひどいことをしてしまう、これはよくあるパターンです。
毒親を持つと高い確率でアダルトチルドレン(親の毒によって思考パターンがいびつに成長してしまった人)になります。
思考パターンがいびつになれば人間関係もいびつになるのです。
確かに、そういう部分を描いたエッセイもあります。
・・・が、この5巻では作者は完全なる悪役として自分を描きます。
1~4巻までは父親(時々母親)を悪役として描いていました。
それが前フリになって、5巻での自分の悪役ぐあいが生々しくなります。
アダルトチルドレンに見られる「どうせ私なんかダメ人間だ」という自己のとらえかたではありません。
自分が悪役になってしまったことを受け止めています。
心が健康な人でも、親密な関係において自分が悪い、ひどい人間だということを受け止められる人は少ないです。
特にアダルトチルドレンは毒親に攻められすぎて罪悪感が強くなりがちなため、人一倍「自分が悪い」ことに敏感です。
それだけに、5巻で自分を悪役として描いているのは衝撃でした。
私はこれは漫画を描くことが大きな助けになっていたのかなと思いました。
アダルトチルドレンからの回復のために、「思っていることをノートに書く」というものがあります。
漫画もやってることは同じですね。
描くことで昇華されるのです。
毒親エッセイ漫画も同様です。
余談ですが、途中から「O野木さん」という名前で担当編集者が出てきます。
この方は私が白泉社でお世話になっていたときの担当編集者です。名前がそのままなのですぐわかりました。
作家に対する敬意にあふれ、とてもおだやかで聡明な方でしたので、絶対この漫画は最後まで作者の描きたいことを描ききれるんだと思います。
今は副編集長になっているようです。
昔お世話になっていた編集者の関わっている作品が今自分に刺さっている、すごく感慨深いです。
ちなみに、「父ちゃんが毒親」という予備知識だけあれば、5巻だけでも十分読めます。
おすすめです。ぜひどうぞ。